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<< 戻る 2013年9月20日


リチウムイオン電池の正極表面は斑模様だった 〜原子レベルの観察でリチウムイオンの不均一な分布状態を解明〜


 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の岩谷克也助教(現 独立行政法人理化学研究所 創発物性科学研究センター 上級研究員)と一杉太郎准教授、および一般財団法人ファインセラミックスセンターの小川貴史研究員、島根大学大学院総合理工学研究科の三好清貴准教授を中心とする研究グループは、リチウムイオン電池の正極材料として知られるコバルト酸リチウム(LixCoO2)の表面状態を原子レベルで初めて観察し、リチウムイオンが不均一に分布しており、その並び方によって金属的な場所や絶縁体的な場所が混在するという、表面構造の多様な電子状態を明らかにしました。
 私達の日常生活において、リチウムイオン電池はノートパソコンや携帯電話など様々な電子機器に用いられています。リチウムイオン電池の高容量化や小型化には、電極材料表面の原子レベルでの理解と制御が鍵を握っていることが最近の研究から示唆されていますが、電池動作の原子レベルでの理解は未だ進んでいないのが現状です。研究グループは、原子1つ1つの配置を観察できる走査型トンネル顕微鏡を用いて、コバルト酸リチウム表面を観察し、第一原理電子状態計算と併せることにより、表面構造の不均一性、多様性を明らかにしました。この成果により、従来リチウムイオンの量だけを指標としてきた電池の性能評価に、表面構造も重要であることが明らかになり、今後、電池動作の背景にある原理の解明と合わせて、リチウムイオン電池の高性能化の進展が期待されます。
 本研究成果は、2013年9月20日に「Physical Review Letters」誌に掲載されます。

【本件に関する問い合わせ先】
(研究内容について)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構 准教授 一杉太郎  TEL: 080-3334-3048
(報道担当)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構 広報・アウトリーチオフィス 中道康文  TEL: 022-217-6146


【研究背景と経緯】
 リチウムイオン電池は携帯電話から電気自動車など幅広い分野で利用されており、省エネルギーの立場からも重要な役割を担っています。さらなる高性能化を実現するためのひとつのアプローチとして、例えば電極と電解液の界面におけるリチウムイオンの出し入れの過程など、電池動作のミクロスコピックな理解の深化が挙げられます。中でも電極材料の表面状態は、電極/電解液の界面に相当し、さらに最近のナノ構造化による電池性能向上に伴い、ますますその重要性が注目されてきています。しかし、電極材料の表面状態はよくわかっていないのが現状です。これまでの類似研究では、空間分解能がサブミクロンサイズに限られ、原子レベルの議論が困難な状況にありました。
 また、コバルト酸リチウム(LixCoO2)は固体物理の分野においても興味深い物質として知られています。電子と電子の間で強い相互作用をもつCoO2層と動きやすいリチウムが交互に重なり合う結晶構造をとるため(図1)、秩序を保とうとする電子とリチウムによる秩序/無秩序状態が競合した珍しい舞台が実現されています。このような状況を実空間で直接観察した例はこれまでありませんでした。


【研究内容】
 本研究グループは、リチウムイオン電池の代表的な正極材料、コバルト酸リチウム(LixCoO2)の表面構造および電子状態を走査型トンネル顕微鏡*1を用いて原子レベルの空間分解能で調べました。
その結果、LixCoO2表面に存在するリチウムは非常に動きやすく、ばらばらに分布するよりも、より安定な状態である三角格子を組む傾向があることがわかりました(図2左)。それに対して、CoO2層が表面にあらわれた領域では、電子分布が秩序だった領域(図2中)と無秩序な領域(図2右)が観察されました。同時に、それぞれの領域は、金属的、絶縁体的な性質をもつことがわかりました。この結果は、表面CoO2層の下に存在するリチウムがそれぞれの領域において、秩序、無秩序状態にあり、コバルトの電子状態に影響を与えているためであると考えられます。
 本研究により、LixCoO2においてリチウムが空間的に不均一に分布していることを示す直接的な証拠を得ることができました。また、従来言われてきたリチウム濃度だけでなく、リチウムの並び方が系の電子状態を決定するということを明らかにしました。


【今後の展開】
 今回明らかになったリチウムの性質は、他のリチウム金属酸化物においても同様に当てはまることが予想されます。また、本研究で見いだされた不均一性は、表面だけではなく、電極材料内部でも存在している可能性があります。今後、リチウムイオン電池中の様々な電子状態や界面状態を原子レベルで明らかにしていくことによって、電池性能の飛躍的な向上だけでなく、これらの材料がもつナノスケールでの新たな物性発現の可能性へと発展していくことが期待されます。


【付記事項】
 本研究成果は、一部、最先端研究開発支援(FIRST)プログラム「高性能蓄電デバイス創製に向けた革新的基盤研究」(中心研究者: 水野哲孝)の支援を受けて、また一部は戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「新物質科学と元素戦略」(研究総括:細野秀雄)の支援を受けて行われました。

【参考図】



 図1 (左)層状コバルト酸リチウムの結晶構造。(右)左の図を上から見た状態。リチウム間の距離は0.28nm。



 図2 コバルト酸リチウムの原子像。(左) 表面のリチウム。三角格子を組んでいる。赤の三角は図1右の三角と同じ位置を示す。 (中) CoO2面における金属的な領域。電子秩序が形成されている。(右) CoO2面における絶縁体的な領域。電子は無秩序に配列している。

【用語解説】
*1 走査型トンネル顕微鏡
原子レベルで鋭い針を試料表面に数ナノメートルの距離まで近づけ、針と試料間に電圧をかけることにより、量子力学的なトンネル電流が生じます。このトンネル電流を一定に保つように針の高さを制御して、試料表面上で針を動かすことによって原子像を得る装置が走査型トンネル顕微鏡です。トンネル電流は試料の電子状態に依存するので、表面構造だけでなく電子状態も原子レベルの空間分解能で調べることができます。

【論文情報】
論文タイトル: Impact of Lithium-Ion Ordering on Surface Electronic States of LixCoO2
著者: Katsuya Iwaya, Takafumi Ogawa, Taketoshi Minato, Kiyotaka Miyoshi, Jun Takeuchi, Akihide Kuwabara, Hiroki Moriwake,Yousoo Kim, and Taro Hitosugi
掲載雑誌: Physical Review Letters


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