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太陽系形成期の小惑星内部における「水」の振る舞いを解明(隕石中のナノ粒子の渦状磁区の発見と小惑星内部の無重力環境に浮かんでいた水滴中の鉱物形成過程の解明)


【概要】
 東北大学大学院理学研究科の木村勇気助教らは、一般財団法人ファインセラミックスセンターの山本和生研究員らと共同で、隕石中に存在する磁鉄鉱ナノ粒子の磁区構造(注1)をホログラフィー電子顕微鏡(注2)(日立製HF3300-EH)を用いてナノレベルで観察した結果、天然では例のない渦状構造を持っていることを発見しました。それにより、太陽系形成期に小惑星内部の無重力空間に浮かぶ「水滴の姿」を世界で初めて明らかにできました。
 磁鉄鉱粒子は通常は磁石の引き付け合う力で枝状に集まりますが、隕石中には形と大きさが均一な粒子が三次元的に規則正しく並んだコロイド結晶(注3)として存在していることがあります。コロイド結晶は反発力で並ぶため、その生成には閉じた空間が必要です。この渦状の磁区構造が磁石の引き付ける力を内部に閉じ込めると、ゆっくりとした水の蒸発とともに行き場を失った粒子が並ぶことができます。そのため、太陽系形成期に小惑星から水がなくなる直前に、その内部の無重力空間に水滴が浮かんでいる状況が明らかになりました(図1)
 隕石中には水が関与して生成した鉱物が存在することから、これまでの研究で小惑星の中に液体の水が存在していたことは知られていますが、それがいつどのように失われたかは分かっていませんでした。今回の発見は、水が干上がる状況を初めて捉えた成果といえ、煮詰めたスープのように化学種が濃縮した水と、鉱物、有機物との相互作用から、いかに有機物の初期進化と隕石中に見られる鉱物の形成が進んだかの解明につながります。また、磁性粒子のコロイド結晶は、未来のデバイス(たとえば、3次元超高密度磁気記録デバイス)としての可能性を秘めており、今回の発見は今後の合成へのきっかけにもなりえます。
 本研究成果は、英国科学誌Nature Communicationsに受理され、平成25年10月22日16時(日本時間23日0時)発行のオンライン版で公開される予定です。

論文名:
" Vortex Magnetic Structure in Framboidal Magnetite Reveals Existence of Water Droplets in an Ancient Asteroid "
「房状磁鉄鉱の渦状磁区構造による太古の小惑星における水滴の存在の証明」
著者名: " Yuki Kimura, Takeshi Sato, Norihiro Nakamura, Jun Nozawa, Tomoki Nakamura, Katsuo Tsukamoto & Kazuo Yamamoto "
「木村勇気(東北大学)、佐藤岳志(ファインセラミックスセンター(現:日立ハイテクノロジーズ))、中村教博、野澤純、中村智樹、塚本勝男(東北大学)、山本和生(ファインセラミックスセンター)」


図1. 小惑星内部の無重力中に浮かぶ水の最後の瞬間と磁鉄鉱コロイド結晶の生成モデル。
(a) 小惑星に他の天体が衝突した結果、振動により内部で水滴が多量に作られ、無重力中に浮かぶ。その後、水はゆっくりと蒸発し、水中に溶け込んでいたイオンの濃度が上昇する。高過飽和になった水滴から、一度の均質核生成イベントにより、均一な形と大きさを持った磁鉄鉱ナノ粒子が形成する。渦上の内部磁区構造はこの時に作られる。
(b) 電子線ホログラフィー法により得られた、直径約180 nmの磁鉄鉱ナノ粒子の磁束分布像。同心円状の縞模様は磁力線が巻いていることを示しており、外部への漏れ磁場は無いことが分かる。
(c) aの中央にある粒子形成後の水滴内部の拡大図。点線は粒子の表面電荷が作るデバイ遮蔽領域(注4)を示す。矢印で示した長さがデバイ遮蔽長。表面電荷による反発力で分散し、水の蒸発に伴って、行き場を失った粒子同士は反発しあいながら三次元的に整列し、コロイド結晶を形成する。水がさらに蒸発した後、コロイド結晶は保存される。
(d) 実際の磁鉄鉱コロイド結晶の走査電子顕微鏡像。スケールバーは1 μm。


【研究の背景】
 46億年昔に冷たい分子雲が収縮して太陽系が誕生する際には、宇宙物質の蒸発や凝縮、衝突合体などのプロセスを経て惑星や小惑星などの天体も同時に作られた。小惑星の欠片である隕石には、大きな惑星ではすでに失われている太陽系形成期の環境を読み解くカギが残されている。例えば、有機物の進化や鉱物の変質に大きな影響を及ぼす水が小惑星に存在していた証拠が、隕石中の熱水鉱物の岩脈や岩塩中に取り込まれた水として残っている。今回分析に用いたタギシュレイク隕石(注5)中に含まれる磁鉄鉱も、サーペンティンやサポナイトのような含水鉱物と一緒に見つかっていることから、小惑星中での水質変質によって形成されたことが分かっており、含水鉱物を含む炭素質コンドライトの進化に関していくつかのモデルが提案されている。しかしながら、隕石中にはすでに液体の水そのものは見られず、小惑星の形成後、いつどこでどのようにして枯渇したのかは分かっていない。
 岩石や鉱物の残留磁化は、形成環境やその後に経験する温度履歴にとても敏感であるため、古地磁気学の手法として古くから使われてきた。タギシュレイク隕石の塊としての磁化もこれまでに調べられており、4〜9 μmの大きさの多磁区構造の磁鉄鉱に由来し、弱い磁場環境下で生成したことが報告されている。2011年に我々を含むグループは、直径110〜680 nmの磁鉄鉱粒子が三次元的に規則正しく並んだコロイド結晶がタギシュレイク隕石中に存在していることを報告している。今回我々は、この磁鉄鉱粒子を取り出し、電子線ホログラフィーという手法を古地磁気学の分野に適用することで、ナノ粒子個々の残留磁化を6 nmの分解能で調べることに成功し、ナノ磁鉄鉱粒子が渦状に自らの磁力線を閉じ込める構造を有していることを天然の試料で初めて発見した。この特殊な磁石の性質とコロイド結晶生成の反発力とを考えることで、その結果タギシュレイク隕石の母天体である小惑星内部の水が無重力下で水滴状になって蒸発してゆく様子を解明した。


【用語の説明】
注1. 磁区:磁石は、多くの極小磁石が同じ方向を向くことで鉄を引き付ける力が生まれる。この極小磁石がそれぞれ同じ方向を向いている領域を磁区と呼ぶ。
注2. ホログラフィー電子顕微鏡:磁場や電場を直接観察することが可能な電子線ホログラフィー専用の透過型電子顕微鏡である。干渉性の良い電子源である電界放出型電子銃と電子波を干渉させる電子線バイプリズムを備えている。
注3. コロイド結晶:粒子サイズが〜μm程度で溶液中に分散している状態(凝集や沈殿を起こさない)をコロイドと呼び、そのコロイド状態の粒子によって構成される周期的な規則配列集合体をコロイド結晶と呼ぶ。
注4. デバイ遮蔽領域:表面電荷によって引きつけられた反対符号のイオンが分布している領域。このイオンの雰囲気によって粒子同士は反発する。
注5. タギシュレイク隕石: 2000年1月18日にカナダに落下後、すぐに回収されたことから、地球物質による汚染や変質が極めて少ないのが特徴。D型小惑星起源で炭素質コンドライトに分類されている。


図2. 太陽系形成期に生成した磁鉄鉱ナノ粒子の(a)透過電子顕微鏡像と(b)電子線ホログラフィー法により得られた磁束分布像。同心円状の縞模様は磁力線が矢印の方向に巻いていることを示している。通常の磁石は図(d)の計算結果のように磁場が外に漏れている。(c)磁化方位を示した色相環図。白矢印は磁化の方位を示している。bと cの像から磁鉄鉱粒子が渦状磁場構造を持っていることが分かる。スケールバーは100 nm。(a〜cは論文図2を転載)


図3. 小惑星内部の水の最後の瞬間とコロイド結晶の生成過程。
(a) 小惑星に他の天体が衝突した結果、振動により内部で水滴が多量に作られ、無重力中に浮かぶ。
(b) その後、水はゆっくりと蒸発し、水中に溶け込んでいたイオンの濃度が上昇する。高過飽和になった水滴から、一度の均質核生成イベントにより、均一な形と大きさを持った磁鉄鉱ナノ粒子が形成する。渦上の内部磁区構造はこの時に作られる。粒子には外部への漏れ磁場は無く、表面電荷による反発力で分散している。
(c) 水の蒸発に伴って、行き場を失う粒子同士は反発しあいながら三次元的に整列し、コロイド結晶を形成する。
(d) cの拡大図。点線は粒子の表面電荷が作るデバイ遮蔽領域注5を示す。矢印で示した長さがデバイ遮蔽長。
(e) 水がさらに蒸発した後、隕石中に見られる房状磁鉄鉱粒子となり保存される。
(f) 実際の磁鉄鉱コロイド結晶の一部を拡大した走査電子顕微鏡像。スケールバーは200 nm。一連の過程において、液滴内部は水の蒸発に伴って化学種が濃縮することから、鉱物−有機物−水の相互作用による化学進化にも重要な役割を果たしたと考えられる。


図4. 隕石中に見られるコロイド結晶の走査電子顕微鏡写真。数100 nmサイズの磁鉄鉱粒子が規則正しく並んだコロイド結晶が多数みられる。均一な形と大きさを持った粒子の形成には、静的な環境における一度の核生成イベントが必要なことから、閉じた空間が必要である。異なる形と大きさの磁鉄鉱粒子から成るコロイド結晶が、すぐ近くに数多く分布していることから、狭い空間に多数の水滴が存在していたことが分かる。スケールバーは4 μm。


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