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環境電子顕微鏡により触媒酸化反応の直接観察に成功
〜排ガス内粒状物質の分解メカニズム解明へ前進〜

本研究の【概要詳細

1.現状と課題
 ディーゼルエンジンの排ガス中の粒状物質(PM)を捕集するためのディーゼルパーティキュレートフィルター(DPF)は既に高い捕集効率を実現しており、排ガスの清浄化に大きな役割を果たしています。しかし、捕集したPMはいずれフィルターを目詰まりさせてしまうことから、フィルターから取り除く機能が必要となります。PMは炭素を主成分とするため、単純には燃やして炭酸ガス(二酸化炭素)として大気に放出すれば良いのですが、そのためには加熱が必要となります。そのような付加的なエネルギーは実質上の燃費低下に繋がるため、それを効率良く行えるように設計・開発されたのが『触媒担持型フィルター(CDPF)』です。CDPFではフィルター表面の触媒によってPMを効率よく分解しますが、更なる省エネ化にはより高効率での触媒設計が必要となっています。そうした触媒設計においては反応メカニズムの十分な理解が重要ですが、PMの触媒酸化反応のメカニズムには未だに明らかとなっていない点が多く存在します。特に、触媒粒子は電子顕微鏡でしか観察できないほどの大きさであるため、触媒との接触度合いが分解効率にどう影響するかは明らかとなっていません。一方で、通常の電子顕微鏡観察では試料が真空の中におかれるため、ガス環境中での触媒反応は直接観察が不可能となっていました。
図2:触媒担持型フィルター(CDPF)の模式図と粒子同士の位置関係での問題


2.研究手法
 今回、触媒酸化メカニズム解明の目的から、非常に単純なモデルサンプルを作製し、その触媒挙動を直接観察によって解析しました。PMを模擬した炭素材料としてカーボンナノチューブ(CNT)を用い、そこへ触媒となる白金微粒子を直接のせることでCDPF上の反応を再現しました。今回のモデルはPMと触媒粒子が一定の度合いで接触した場合の挙動に対応しています。観察には環境電子顕微鏡と呼ばれる特殊な電子顕微鏡を用いて、ナノスケールでの立体構造変化を動画として観察しました。サンプルを電子顕微鏡内の真空で400°Cまで加熱した後、酸素ガスを導入するといった条件で触媒分解反応を行っています。
図3:環境電子顕微鏡(E-STEM)によるその場観察の模式図


3.研究成果
 触媒挙動の動的観察の結果、白金触媒の酸化浸食方向が酸素の圧力に応じて変化する様子を今回初めてとらえられました。侵食方向は通常の透過像から把握することはできませんが、二次電子検出器注5といった特別な装置構成により、表面形態を同時に観察することで侵食方向の変化を捉えることが可能となりました。侵食過程において、10万分の1気圧を下回るような希薄な酸素環境中では白金粒子はCNT表面を移動して層をはぐように浸食しますが、圧力が10万分の4気圧程度まで上昇すると白金触媒は沈み込んでCNT内部を浸食するようになります。図4は浸食過程を静止画として抜き出したものを示しています。
図4:酸素の圧力に応じた白金触媒浸食方向の変化
酸素の圧力が1Pa(10 万分の1 気圧)では白金触媒はナノチューブを薄く削るように浸食するが
4Pa(10 万分の4 気圧)まで増加すると白金粒子はナノチューブ内部に入り込み浸食する
 今回明らかとなった炭素材料の浸食方向における変化は、触媒粒子表面に吸着した活性酸素の供給先の変化によるものと推測されます。


4.今後の展開
 今回、解析を行なったモデルは非常に単純化した材料であり、実際のCDPFでの挙動を直ちに説明できるにはいったておりません。しかし、こうした基礎的知見を積み重ねて、段階的に実際の材料に近づけていくことが必要であり、それにより詳細な触媒機能発現のメカニズムを理解することが可能となります。我々は、CDPF設計の指針となるメカニズム解明を目的として、より複雑なモデルサンプルをターゲットとした解析を継続して行っていきます。


【用語説明】
(注1) 粒状物質(PM)
  ディーゼル排気ガス中には炭素を主とした微粒子成分が含まれており、それが大気に放出された場合、人体への悪影響が懸念される。そのためPM低減はディーゼルエンジンにとって大きな課題となっている。
(注2) ディーゼルパーティキュレートフィルター(DPF)
  ディーゼルエンジンの排ガス中のPMを捕集する目的で設計された多孔製セラミックスフィルター。炭化ケイ素やコージェライトでできており、今日の製品においては排ガス中のPMを90%以上で捕集することが可能となっている。フィルターの目詰まりを防ぐため、捕集したPMの定期的、もしくは連続的な酸化分解(燃焼)が必要となる。
(注3) 触媒担持型ディーゼルパーティキュレートフィルター(CDPF)
  DPFの表面に酸化触媒を付加したもの。DPF の再生過程において触媒が機能して、より低エネルギーで捕集したPMの酸化分解が行なわれることが期待される。
(注4) 環境電子顕微鏡(E-STEM)
  観察試料近傍にガス環境を形成して、ガス中での反応や構造の観察が可能となる電子顕微鏡。環境電子顕微鏡では特殊な機構により試料の近傍のみにガス環境を形成している。その1つとしては試料にガスを吹付け、その外側ではいくつものポンプで真空を保持する差動排気方式がある。今回用いた観察装置では試料表面形態の観察が可能な二次電子検出器が装備されており、透過像では把握することができない立体的な試料の構造情報も得ることができる。
(注5) 二次電子検出器
  電子線が当たって試料の表面から発生する二次電子を検出するための検出器。二次電子の強度は試料の表面形状に強く依存しているため、それを利用して試料の表面形状を観察することが可能となる。


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研究担当者
ナノ構造研究所 環境電子顕微鏡グループ 吉田要

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