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<< 戻る 2011年6月28日


水素原子の直接観察に世界で初めて成功
−水素貯蔵材料など水素エネルギー関連の研究開発に大きなインパクト−


 新素材創出や材料解析を目指すナノテクノロジー開発分野では、原子レベルでの観察や分析を可能とする顕微鏡技術が極めて重要な役割を果たしています。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、材料内部の原子構造を直接観察できることから現在も広く応用されていますが、新素材のキーとなる軽元素(例えば、水素(原子番号1)、リチウム(原子番号3)、炭素(原子番号6)、窒素(原子番号7)、酸素(原子番号8)など))の観察には不向きであるとされてきました。しかし、今後ナノテクノロジー開発を促進していくためには、軽元素の挙動を解明することが必須であり、軽元素観察が可能な顕微鏡法の開発が急務とされていました。そのような背景のもと、世界中の研究者がしのぎを削ってその手法の開発研究を進めています。

 このような背景の元、昨年、(財)ファインセラミックスセンター、東京大学および日本電子は、軽元素観察が可能な新原理軽元素観察手法(図1:角度制御環状明視野―走査透過電子顕微鏡法(ABF-STEM法))を共同で開発したことを発表しました。この手法を用いて、昨年度(財)ファインセラミックスセンター、トヨタ自動車(株)、東大の共同グループはリチウム電池材料中のリチウムイオン(原子番号3)の観察に成功し、電池関連業界に大きなインパクトを与えました。

 この手法を、電子顕微鏡の観察条件や計算機による像シミュレーションなどを繰り返し検討することによってさらに高度化し、水素原子(原子番号1)の直接観察に世界に先駆けて成功しました。

 本成果は、最先端の電子顕微鏡を用いることで全ての元素が観察されることを実証した画期的な結果であり、今後のナノテクノロジー・材料開発における研究のブレークスルーになることが期待されます。また、次世代のエネルギーとして注目されている水素エネルギー関連の研究開発にも大きなインパクトを与えるとともに、さらに安全で高性能・長寿命な水素吸蔵材料開発にも応用できる技術であると期待されます。


 本観察は、球面収差補正を用いた走査透過電子顕微鏡法による最先端観察技術と観察条件の理論計算を組み合わせることによってはじめて実現しました。すなわちこの観察技術は、走査透過電子顕微鏡のレンズに球面収差補正を行うことで0.1ナノメートル以下の分解能を達成するとともに、理論計算を用いて水素原子が観察できる検出角度を決定して計測することではじめて可能となります。

【用語説明】
ナノテクノロジー
ナノメートル(10億分の1メートル)のレベルで物質の構造や配列を制御し、新しい材料・デバイスを開発する工学技術。
原子分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)
0.1ナノメートル(1オングストローム)以下程度まで細く収束させた電子線を試料上で走査し、試料により透過散乱された電子線の強度で、試料中の原子位置を直接観察する装置。
水素エネルギー・水素貯蔵金属
水素エネルギーは将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。水素を内部に貯蔵できる金属。


従来の観察法と今回の新原理観察手法


VH2の結晶構造とVH2の超高分解能ABF-STEM像


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