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<< 戻る 2015年3月31日


超硬物質ダイヤモンドと窒化ホウ素の接合界面の原子構造を特定


1.研究概要
 東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の幾原雄一教授(東京大学教授併任)、王 中長准教授、陳春林助教らのグループは、物質・材料研究機構(NIMS)の谷口尚グループリーダーおよびファインセラミックスセンター(JFCC)と共同で、最先端の超高分解能走査透過型電子顕微鏡と第一原理計算手法を駆使し、最も硬い物質として知られるダイヤモンドと、ダイヤモンドの次に硬い立方晶窒化ホウ素同士の接合界面の原子構造、結合メカニズムを、原子レベルで決定することに初めて成功しました。
 本研究グループは、結晶中の格子欠陥である転位や粒界・界面を対象にして、その原子構造の解析や格子欠陥を制御した新機能材料の開発を試みてきました。近年の原子分解能走査透過電子顕微鏡法の技術革新と第一原理による大規模な理論計算を併用することによって、ダイヤモンドと窒化ホウ素の接合界面では、炭素とホウ素が結合していることや、転位と呼ばれる欠陥が特徴的な構造をとっていることを明らかにしました。
 今後、本研究を起点にし、このような欠陥構造の形成を制御することで、デバイス材料の特性向上や格子欠陥構造を活用した新規デバイスの設計、新機能材料の研究開発につながることが期待されます。本成果は2015年2月17日(英国時間)に英科学誌「Nature Communications (ネイチャー・コミュニケーションズ)」オンライン版で公開されます。


2.研究背景と経緯
 立方晶窒化ホウ素(c-BN)注1)は、窒素原子Nとホウ素原子Bの間に配位結合が形成され、炭素Cのみから成るダイヤモンドと同等の共有結合性や硬度を有し、ダイヤモンドと同じく正四面体構造(ダイヤモンド構造)をとります。しかしながら平均原子間隔(格子定数)が両物質で1.4%ほど異なる上、いずれも共有結合性の大きな物質であるため、その接合は極めて難しいものと予測されていました。もし接合したとしても、c-BN/ダイヤモンド境界面上には不整合が生じるため、この不整合を緩和するためには転位注2)などの周期的な欠陥構造の導入が必要です。しかし、金属とは異なりいずれも硬い共有結合性物質のために原子の緩和が必要な転位の導入も困難だと考えられていました。このような異種物質境界はさまざまな電子、光学、磁性デバイスなどに広く利用されており、学術的にも工学的にも興味深い諸現象が報告されています。c-BNもダイヤモンドも硬い共有結合を有し、金属とは異なりほとんど変形できないような物質同士が、境界面でどのような原子構造をとりながら結合するのかについては、これまで不明でした。
 このような背景の下、本研究では超高硬度物質であるc-BN/ダイヤモンド境界面の原子レベルの構造特定と、その物理特性を明らかにすることに初めて成功しました。


3.研究内容と展開
 研究内容と展開。今回、幾原教授、王准教授、陳助教とNIMSの谷口グループリーダーらは、ファインセラミックスセンター(JFCC)と共同でc-BN/ダイヤモンド境界面の原子レベルの構造解析とその物性の解析を試みました。
本研究では、先ず密度汎関数法に基づく第一原理計算により、エネルギー的に安定なc-BN/ダイヤモンド境界面の原子構造を探索し、窒素-炭素(N-C)結合よりもホウ素-炭素(B-C)結合の方が、結合エネルギーの低い構造であることが示唆されました。c-BN/ダイヤモンド境界面は、ダイヤモンドの土台(母相)の上に、高温高圧下でc-BNの単結晶を成長させる(温度勾配法によるヘテロエピタキシャル成長注3))というNIMS独自の特殊な方法で作製しました。得られたサンプルの界面を超高分解能走査透過型電子顕微鏡注4)法により観察を行い、理論計算で予測された通り、図1のような、ダイヤモンドの炭素原子とc-BNのホウ素原子が結合している様子が観察されました。
 また、金属の界面では通常転位同士が結びつき、複雑な転位網を形成しますが、本研究では第一原理計算により六角形の転位ループが独立して存在した方がエネルギー的に安定であることが示唆されました。そこで電子顕微鏡によりさらに詳しく観察した結果、図2のような六角形構造が観察され、理論的に予測された転位ループの分離が実験的にも示されました。第一原理によるさらなる探索により、この境界面上にはc-BNやダイヤモンド単一では持ちえない1次元電気伝導性が発現しうることも明らかになりました。
 今後、本研究を起点にし、共有結合性物質同士の接合を用いた新機能材料の研究開発につながることが期待されます。

 本成果は、2015年2月17日付(英国時間)で英国科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」オンライン版で公開されました。尚、本研究の一部は文部科学省による構造材料元素戦略研究拠点(ESISM)事業および科学研究費補助金・新学術領域研究モナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開モの一環として実施されました。


【参考図】

図1: c-BN/ダイヤモンド境界面の、透過型顕微鏡による明視野像とSAED注5)
(a) [11-2]晶帯軸による明視野像 (b) [11-2]晶帯軸によるSAED像
(c) [111]晶帯軸による明視野像 (d) [111]晶帯軸によるSAED像
不整合を補填するために転位が導入され、六角形を形成している。
スケールバーはともに15nm。



図2:(a) 六角形転位ループの模式図 (b-d)六角形転位ループの電子顕微鏡像。
ベクトルgの直交方向が明るい(白い)コントラストをもつ。スケールバーはともに15nm。



図3:(a-b) c-BN/ダイヤモンド境界面の[1-10]晶帯軸・HAADF-STEM注6)像  (a)欠陥のない結合領域 (b) 欠陥領域
(c-d) c-BN/ダイヤモンド境界面の[11-2]晶帯軸・HAADF-STEM像
(c)欠陥のない領域 (d) 欠陥領域。部分転位が観察される。(c)と(d)の比較により、部分転位を特徴づけるバーガーズベクトルは1/4<1-10>と決定される。
スケールバーはいずれも0.5nm。



【用語解説】
注1) 立方晶窒化ホウ素(c-BN)
超高圧で焼結した立方晶窒化ホウ素はダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ物質として知られ、硬質材料の切削に用いられている。また、ダイヤモンドに比べ熱に強く、鉄との反応性も低いため、鋼や鋳鉄の研磨剤や超高速切削などにも利用される。
注2 転位
結晶中に存在する線状の欠陥構造。結晶内に半平面を挿入・削除することにより導入される (下図参照)。金属では外力を加えると転位が移動し、破壊することなく塑性変形によって変形する。物質中の粒界や異種物質の境界などでは周期的に転位が導入され、不整合を局在化することによりエネルギー的に安定な構造が形成されることが知られている。
 
注3) ヘテロエピタキシャル成長
エピタキシャル成長とは、薄膜などにおける結晶成長技術である。基板となる結晶の上に順次結晶を重ねていく。基板となる結晶面の方位により、成長結晶面の配列が決定される。基板と薄膜が同じ物質である場合をホモエピタキシャル、異なる物質である場合をヘテロエピタキシャルという。ヘテロエピタキシャル境界面には興味深い物性が生じることが多々あり、種々のデバイスに応用されている。
注4) 超高分解能走査透過型電子顕微鏡
0.1ナノメートル(1億分の1センチメートル)程度まで細く絞った電子線を試料上で走査し、試料により透過散乱された電子線の強度で試料中の原子を直接観察する装置。
注5) SAED
Selected-Area Electron Diffractionの略、制限視野電子回折。電子顕微鏡の対物レンズの像面に制限視野絞りを入れ、試料の場所を直径 数100nm程度に選び回折図形を得ることができ、特定の場所の結晶構造を解析することができる。
注6) HAADF-STEM
High-Angle Annular Dark Field Scanning Transmission Electron Microscopyの略、高角散乱環状暗視野走査透過型顕微鏡法。細く絞った電子線を試料に走査し、透過電子のうち高角に散乱したものを環状の検出器で検出する。重元素のコントラストはSTEM像では暗いが、HAADF-STEM像では明るい。原子番号の2乗に比例したコントラストが得られる特徴がある。

【論文名および著者名】
"Misfit accommodation mechanism at the heterointerface between diamond and cubic boron nitride" (ダイヤモンドと立方晶窒化ホウ素の異種物質境界における不整合補償メカニズム)
Chunlin Chen, Zhongchang Wang, Takeharu Kato, Naoya Shibata, Takashi Taniguchi and Yuichi Ikuhara

【発表雑誌】
Nature Communications電子版、2015年2月17日(英国時間)
DOI: 10.1038/ncomms
http://www.nature.com/naturecommunications


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