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本研究の

I【概要】

 一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)の吉田要博士、佐々木祐生博士、桑原彰秀博士と幾原雄一客員主幹研究員(東京大学・東北大学)の研究グループは、複数の特殊なその場顕微鏡観察※1手法により液中電気化学反応での亜鉛デンドライト※2形成過程を明らかにすることに成功しました。
 安価で豊富な元素である亜鉛金属を負極とした亜鉛負極二次電池※3は、新たな二次電池として注目され、その実用化に向けた開発研究が盛んに進められています。しかし充電過程で生じるデンドライト(図1)は電池のサイクル特性を大きく低下させるため、その形成抑制方法が大きな技術課題となっています。デンドライトの発生メカニズムについては古くから定性的モデルが提案されているものの、複雑な電気化学反応での各パラメータの影響を十分に解明できていませんでした。本研究では特殊な電子顕微鏡装置を用いたその場観察により、デンドライト形成に与える電気化学反応パラメータを明らかにしました。本成果は金属電析過程で生じるデンドライト形成機構の解明の基礎となり、亜鉛負極電池の充電条件最適化において重要な知見となります。
 本成果は2026年4月8日に米国化学会発行の国際誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載されました。

図1.亜鉛負極二次電池の模式図と亜鉛デンドライトの光学顕微鏡写真

II【本研究の詳細】

① 現状と課題

 安価で豊富な元素である亜鉛を負極に用いた亜鉛負極二次電池※4は新規二次電池の候補として注目され、盛んに研究開発が進められています。不燃性の水系電解液を用いる亜鉛負極二次電池は安全性においても有利であるほか、亜鉛空気電池やアルカリ電池などといった一次電池としてはすでに広く普及しているものです。しかしそれらを充電可能な二次電池とするには課題が多く、特に充放電サイクルを劣化させる要因となる亜鉛デンドライト※2の形成(図1)は深刻な課題です。しかしその抑制技術といったものは十分に確立できていないところが現状です。

図1.亜鉛負極二次電池の模式図と亜鉛デンドライトの光学顕微鏡写真

 デンドライト結晶の形成メカニズムについては古くから定性的モデルは提唱されており、合金の急冷過程などに生じるデンドライトについてはよく説明できるものとなっています。しかし一方で電気化学反応では影響するパラメータが多く複雑であることから、個々の影響を独立して十分に評価することができていないため電析制御のための指針構築が十分に進んでいません。

② 研究手法

 水系電解液中で進行する亜鉛電析反応の過程について、液中電気化学走査電子顕微鏡(LP-EC-SEM)法※5と液中電気化学透過電子顕微鏡(LP-EC-TEM)法※6によるその場観察(図2)を行いました。
 電子顕微鏡は高い空間分解能での観察手法として有効ですが、光源が電子線であることから鏡筒内を高真空に保つ必要があり、通常では液体試料の観察は不可能です。それに対して電子線透過が可能な薄い観察窓によって液体を真空から隔離することで、液体試料の電子顕微鏡を観察可能にする特殊技術が近年発展してきています。特に独自に新規開発したLP-EC-SEM法では、それまで課題であった反応再現性が格段に向上され、個々の条件パラメータの比較が可能になっています。

液中電気化学走査電子顕微鏡(LP-EC-SEM)
液中電気化学透過型電子顕微鏡(LP-EC-TEM)

図2.液中電気化学その場観察顕微鏡の模式図

③ 研究成果

 LP-EC-SEM法によるその場観察を中心に電解液濃度と電流密度に応じた電析亜鉛の形態比較を行ったところ、高電流密度条件および低濃度電解質条件においてデンドライトの形成傾向が確認されました(図3)。

低電流密度(-5 μA 20秒)
高電流密度(-5 μA 20秒)

図3.0.5M硫酸亜鉛水溶液中の定電流電析亜鉛のLP-EC-SEM像

低電流密度での電析では電極まわりに均一に亜鉛が電析されているのに対して、
高電流密度条件では特異なデンドライトが伸長している様子が観察される

 LP-EC-SEM法では精密な電析反応制御とミクロスケール直接観察が両立していることから、個別反応パラメータの影響が明らかとなりました。さらに、こうしたデンドライト形成傾向は反応過程で形成される電極周りの電解液内の亜鉛イオン空乏領域の構造(図4)が深く関与しており、不均一な亜鉛電析成長速度がデンドライト形成を促進していることも明らかとなりました。

低電流密度条件
高電流密度条件

図4.0.5M硫酸亜鉛水溶液中の定電流電析過程の光学顕微鏡観察

亜鉛の電析により電極近傍に生じた亜鉛イオン空乏層が高電流密度で不均一である様子が確認される

④ 今後の展開

 亜鉛デンドライト抑制として提案されている、添加剤の効果などについて定量的に評価することが可能となったことから、亜鉛電析反応制御におけるより精密な高度化が実現されると期待されます。また金属電析反応は電解メッキの制御など電池以外の幅広い電気化学分野応用において重要となるものであり、分野に応じた反応条件探索における基礎的知見が含まれています。

論文情報

タイトル:Multiscale in Situ Analysis of the Zinc Electrodeposition Process in Aqueous Electrolytes

著者:Kaname Yoshida,1,* Yuki Sasaki,1 Akihide Kuwabara,1 Yuichi Ikuhara1,2,3

著者所属:1Japan Fine Ceramics Center, 2The University of Tokyo, 3Tohoku University, *責任著者

掲載誌:ACS Applied Materials & Interfaces

DOI:10.1021/acsami.6c01013

研究助成

 本成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業(JPNP21006)の結果得られたものです。

【用語説明】

※1 その場顕微鏡観察

 反応過程などの変化の様子について、その場で反応を進行させてその過程を直接顕微鏡観察する手法。

※2 亜鉛デンドライト

 亜鉛電析過程で頻繁に生じる樹状形態の亜鉛金属結晶。亜鉛負極電池内で成長が進み、正極に達した際にはセル内短絡回路となることから充放電サイクルを劣化させる原因となっている。

※3 亜鉛負極二次電池

 亜鉛金属を負極とする電池であり、アルカリ乾電池や亜鉛空気電池などの一次電池としては広く普及している。安価で豊富な元素である亜鉛を用いており、不燃性の水系による安全性の面から新規二次電池の候補の1つとして期待されている。

※4 亜鉛負極電池

 亜鉛金属を負極に用いた電池。充電機構を持たない一次電池(亜鉛空気電池,アルカリ乾電池など)としては既に広く普及している。不燃性の水系電解液を用いることから安全であり、安価で豊富な亜鉛を用いていることからリチウムイオン電池に置き換わる新規二次電池の候補として期待され開発が進められている。

※5 液中電気化学走査電子顕微鏡(LP-EC-SEM)

 亜鉛金属を負極に用いた電池。充電機構を持たない一次電池(亜鉛空気電池,アルカリ乾電池など)としては既に広く普及している。不燃性の水系電解液を用いることから安全であり、安価で豊富な亜鉛を用いていることからリチウムイオン電池に置き換わる新規二次電池の候補として期待され開発が進められている。

※6 液中電気化学透過型電子顕微鏡(LP-EC-TEM)

 2枚の窒化ケイ素薄膜の観察窓の間に非常に薄い液体試料を封じることで、TEMによる電気化学反応直接観察を可能にする特殊装置。必要となる3つの電極(作用極、参照極、対極)は全て微小チップ上に配置されており、微小空間において電気化学反応を制御しながらその場観察が実行される。空間分解能の点において非常に有利であるが、反応制御の再現性で課題がある。

<本研究の内容に関するお問い合わせ先>

一般財団法人ファインセラミックスセンター
ナノ構造研究所 電子顕微鏡基盤グループ 吉田要
Tel:052-871-3500、Fax:052-871-3599
:kaname_yoshidajfcc.or.jp

<報道に関するお問い合わせ先>

一般財団法人ファインセラミックスセンター
研究企画部
Tel:052-871-3500、Fax:052-871-3599
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