次世代パワー半導体窒化ガリウムの欠陥三次元イメージング技術を開発
~ 非破壊・高速で欠陥を検出、結晶とパワーデバイスの高品質化を加速 ~
2026年5月12日
Press Releases
2026年5月12日
窒化ガリウム(GaN)(注1)は、青色LEDの材料として知られる一方、近年ではスマートフォンやパソコンの充電器、通信基地局、衛星通信、自動車などに用いられる高効率・高速動作のパワーデバイス(注2)材料としても注目されています。
こうした用途では、GaN結晶中に存在する転位(注3)などの結晶欠陥(注4)が、デバイスの性能低下や信頼性劣化の要因となるため、欠陥の低減が重要な課題となっています。そのためには、まず結晶内部の欠陥を正確に観察・評価する技術の確立が不可欠です。
JFCCは、セラミックフォーラム株式会社、三重大学と共同で、光学顕微鏡の一種である位相差顕微鏡(注5)を用い、GaN結晶中の欠陥を三次元的に可視化する技術を開発しました。位相差顕微鏡は、操作自体は比較的容易でありながら、従来は特殊な装置を用いなければ観察が困難であった転位を、結晶内部にわたって立体的に観察できる点が特徴です。
本技術により、結晶内部における欠陥の空間分布や種類を高精度に把握することが可能となり、結晶成長条件の最適化に向けた有効なフィードバックが期待されます。これにより、GaNパワーデバイスの高性能化・高信頼化が進み、今後のさらなる普及につながると期待されます。

図1 GaN(0001)単結晶の位相差顕微鏡像。検出された欠陥はそれぞれ、①転位、②転位、③結晶境界、④空隙
(撮影条件:波長405 nm、対物レンズ20× NA=0.5、撮影時間=0.003秒)
スマートフォンやノートパソコンなどのモバイル機器の小型化や、電気自動車の普及、通信基地局の低消費電力化を支える技術として、電力の変換と制御を担う「パワーデバイス」の高性能化が求められています。その中でも、GaNは高速かつ低損失で電力を変換できる材料として注目されています。しかし、GaNは結晶成長が難しく、結晶中に転位などの欠陥が多く残ることが課題となっています。これらの欠陥は、デバイスの性能を低下させるだけでなく、長期的な信頼性にも影響を与えます。
こうした課題を解決するためには、結晶中の欠陥がどこにどの程度存在しているかを正確に把握し、それをもとに結晶成長条件を改善することが不可欠です。そのためには、ウエハ全面にわたって欠陥を非破壊で観察できる評価技術の確立が求められています。
現在、GaNの欠陥分布を非破壊で観察する手法の一つとして、多光子励起顕微鏡(注6)が知られています。この手法では結晶内部の欠陥を三次元的に観察できる一方、1枚の画像(123 μm×123 μm)を取得するのに数秒から数十秒を要するため、広い面積を一度に評価することが難しいという課題がありました。
本研究では、GaN結晶を位相差顕微鏡により観察し、高速かつ大面積での欠陥評価が可能であることを実証しました。1枚あたり360 μm × 300 μmの画像をわずか0.003秒で取得でき、6インチウエハ(注7)全面の観察に必要な約17万枚の画像も、計算上約500秒で撮影可能です。
取得した画像には、点状、ほうき星状、線状などさまざまなコントラストが観察され、これらを他の評価手法と比較することで、それぞれが異なる種類の欠陥に対応していることを明らかにしました。具体的には、点状およびほうき星状のコントラストは転位、太い線状のコントラストは表面傷、短く太い線状のコントラストは結晶内部の空隙、細い線状のコントラストは結晶境界に対応することが確認されました。
さらに、観察する焦点位置を結晶の上面から下面まで変化させることで三次元観察を行った結果、転位には、結晶内をほぼ直線的に貫通するものだけでなく、斜めに傾いたものや、全体としては貫通しているものの局所的に蛇行したものなど、さまざまな形態が存在することが明らかとなりました。また、結晶表面の傷は上面よりも下面に多く分布する傾向も確認されました。
加えて、転位間隔が約1.3 μmまで近接した場合でも個々の転位を識別可能であることが分かり、一般的な市販の自立GaN基板(注8)に対して、転位の分布や密度を高精度に評価できることが示されました。
本研究により、位相差顕微鏡を用いてGaN結晶中の欠陥を高速かつ大面積にわたって三次元的に観察できることが示されました。従来手法では困難であったウエハ全面の非破壊評価が可能となることで、結晶中の欠陥分布や欠陥密度を網羅的に把握できるようになる点に大きな意義があります。
また、本手法は観察操作が比較的簡便であり、特別な熟練を必要としない点も特長です。このため、研究用途にとどまらず、ウエハの検査装置としての実用化も期待されます。高速かつ広範囲の評価が可能であることから、製造現場における製造ラインの中でそのまま行える検査(インライン検査)や品質管理への応用にも展開が見込まれます。
さらに、本技術は結晶成長条件の最適化に対して迅速かつ的確なフィードバックを提供できるため、GaN結晶の高品質化を加速することが期待されます。これにより、パワーデバイスの性能向上および長期信頼性の向上に貢献し、モバイル機器、通信インフラ、自動車など幅広い分野でのGaNデバイスのさらなる普及を後押しします。
今後は、本手法のさらなる高精度化・自動化を進めるとともに、欠陥の種類判別や定量評価の高度化を図ります。また、他のワイドバンドギャップ半導体材料への展開も視野に入れ、次世代パワーデバイス材料の開発に貢献していきます。

図2 位相差顕微鏡の光学系。直接光と回折光が干渉して位相像を作る。三次元観察は焦点面を結晶の表面から中へ試料面に対して垂直に動かして行う。

図3 (a),(i)上面と下面の多光子励起顕微鏡像。(b)–(h)上面から下面まで60 µmステップで撮影した位相差顕微鏡像。黒矢印と黄色矢印が表面の傷、白矢印が結晶境界を示す。
本成果は2026年4月14日に国際科学雑誌「Applied Physics Express」(IOP Science)にオンライン公開されました。
タイトル:High-throughput, non-destructive, three-dimensional imaging of GaN threading dislocations with in-plane Burgers vector component via phase-contrast microscopy
著者:Yukari Ishikawa, Ryo Hattori, Yongzhao Yao, Daiki Katsube and Koji Sato
掲載誌:Applied Physics Express
本研究の一部は経済産業省 戦略的基盤技術高度化支援事業JPJ005698、JSPS科研費23K04444の支援を受けて実施されました。
青色LEDの材料として有名だが、次世代の高速、省エネ、高耐圧電子デバイス用半導体として注目を集める。
整流ダイオード、パワートランジスタなど、電力変換・制御用半導体素子のこと。
原子配列のわずかなずれによって生じた線状の微小欠陥。
本来、理論上では原子が規則正しく配列するはずの結晶にある、原子配列が乱れて空間的な繰り返しパターンに従わない部分。格子欠陥が含まれるとパワーデバイスの性能と信頼性が低下する。
一般には生物顕微鏡と称されて普及している透明な微生物や細胞を見るための顕微鏡に、オートフォーカス機能やマッピング機能を加えて半導体ウエハ専用に開発された Ceramic Forum
CP1。
発光強度分布を観察することで光りにくい欠陥を検出する顕微鏡。励起方法に特徴があり、2個以上の光子を同時に吸収させて発光を起こさせる。表面だけではなく内部の発光強度分布も観察できる。
単結晶を薄い円盤状に加工したものでこれの上にデバイスを作る。ウエハのサイズが大きいほどデバイスの製造コストが小さくなる。
サファイアやシリコンなどの基板が付属しない、窒化ガリウム(GaN)だけからなる基板。
(一財)ファインセラミックスセンター
材料技術研究所 機能性材料グループ 石川由加里
Tel:052-871-3500、Fax:052-871-3599
:yukarijfcc.or.jp
セラミックフォーラム株式会社
神戸研究室 服部亮
Tel:078-335-8860
:hattoriceramicforum.co.jp
国立大学法人三重大学
研究基盤推進機構 半導体・デジタル未来創造センター
姚永昭
Tel:059-231-5390
:yaoicsdf.mie-u.ac.jp
(一財)ファインセラミックスセンター
研究企画部
Tel:052-871-3500、Fax:052-871-3599
:ressupjfcc.or.jp
セラミックフォーラム株式会社
神戸研究室(福永)
Tel:078-335-8860
:fukunagaceramicforum.co.jp
国立大学法人三重大学
企画総務部総務チーム広報・渉外室
Tel:059-231-9789
:kohoab.mie-u.ac.jp
@はテキストコピーできませんのでご注意ください。
掲載内容についてのお問い合わせ等がございましたら、下記までご連絡ください。
〒456-8587 名古屋市熱田区六野二丁目4番1号
(一財) ファインセラミックスセンター 研究企画部
TEL 052-871-3500
FAX 052-871-3599
e-mail: ressup@
(※メール発信は@の後ろに jfcc.or.jp を付けて送付ください)